【レビュー】私がビーバーになる時

私がビーバーになる時

レビュー

個性あふれる動物たち

観ている途中で気づいたことですが、本作はとにかく動物キャラクターひとりひとりの個性がしっかり立っていました。背景にちょこっと映るような子まで描き分けが効いているので、いざ物語の本筋に絡んできた時に「あ、さっきいたあの子か」とすっと入ってくるのが気持ちいいなと思います。

中でも個人的に推したいのが、ビーバーズの「のんびり屋すぎて、食べられがち」担当のローフ。"癒し系"担当という公式の紹介文の時点で先行きが心配になるネーミングセンスなのですが、序盤からさっそく食べられそうになるところを主人公のメイベルに助けてもらう展開で、もうこの一連の流れが面白すぎました。助けてもらった本人(本ビーバー?)が「ルール違反だ!」と怒るのが完全にツボでした。食物連鎖の摂理を順守しようとするピュアさよ。

そしてもうひとり、というか一匹、虫の王子のタイタス。公式紹介には「虫の女王の息子で、権力に飢えている」とあるのですが、芋虫の見た目と権力欲のギャップでまず笑えます。さらにここで唸ったのが吹替の声優陣で、タイタスの吹替がなんと大谷育江さん。「ONE PIECE」のチョッパーが脳裏をよぎってしまって、虫なのに思わず手を貸してあげたくなるという、声優由来のバグった感情が起こりました(虫だけど)。

余談ですが、本作の世界では哺乳類の王がビーバーなんですよ。熊でもライオンでもなくビーバー。ダム作って池を仕切ってるからかな?とは思うものの、力関係的にどうなんだろう、というツッコミどころが残ってしまうのは個人的に気になりました(後述の評議会まわりとも繋がる話)。

動物かわいい系かと思ったらSF

本予告を観た時点では「ピクサーの動物コメディ」みたいな印象を持っていたのですが、観てみたら想像以上にSF寄りの構造でちょっと意表を突かれました。なんといっても、人間の意識をビーバー型ロボットに"ホップ"させて潜入する、という設定そのものがゴリゴリのSFガジェット仕掛け。

PVでも「もう人間に戻らないと!」「脳がもう限界だ!」というセリフが入っているので、長時間動物に意識を移していると人体側に何かしら危ない、という制約があることは公開済みの情報です。劇中でもこの制約は何度か顔を出すのですが、個人的にはもう少し具体的にどう危ないのか、技術設定としての裏付けがあると、SF側の手触りがもっと厚くなったかなと思いました。惜しい。

そしてこの意識転送ガジェット、観ながら頭をよぎったのは「アバター」。実は劇中でも主人公自身が思わず「アバターじゃん」とポロッとツッコむ瞬間があって、こちらが内心思ったタイミングで作品の方から先にツッコミを入れてくる、この呼吸感が絶妙にうまいなと感じました。

視点で描き分けられる3DCG演出

本作はカメラが「人間視点」と「動物視点」とで切り替わるたびに、同じ動物を 違うレンダリング で描き分けています。観ていて「なるほどな〜」と感心したポイントでした。

具体的には、動物視点で映る動物たちは、表情が豊かで白目と黒目もはっきりしていて、画面上はもう完全に「人間っぽい顔」をしています。話す時もちゃんとセリフとして言葉を発しているように見える。一方、同じ動物を人間視点で映した瞬間、表情はリアル寄りに引き締まって白目もほぼ見えなくなり、口から出てくるのはセリフではなく動物としての鳴き声になるんです。

この描き分けが設定として明確に立ち上がるのが、ヴィランポジションの人間ジェリー市長と意思疎通を図ろうとするシーン(PVにも登場します)。動物視点では普通に会話している場面が、人間視点では「ビーバーが必死に鳴いていて、スマホに入力された文字を読み上げて意思を伝える」という、限定的なコミュニケーション手段に切り替わります。視覚と聴覚の両方で「今は誰の視点なのか」を瞬時に伝える仕掛けになっていて、画面設計としてとても賢いなと感心しました。

ピクサー作品はどれもキャラクターの表情設計が緻密ですが、本作は 同じキャラを2モードで作り分ける という贅沢な使い方をしているのが新しいなと思います。これって地味に作業量2倍のはずで、現場の労力を想像するとちょっと震えます。

ズートピアとの比較

ディズニー系の動物擬人化作品といえば、まず比較したくなるのがやっぱり「ズートピア」シリーズかなと思います。ズートピアの世界は哺乳類が完全に共存していて、肉食獣が草食獣を食べないことが社会の前提になっているファンタジー寄りの世界観でした。一方、本作はローフが熊に食べられかけるシーンが象徴的なように、食物連鎖がちゃんと残っているリアル寄りの世界観です。

そう考えると、同じディズニーの動物擬人化作品でも、ズートピアとはアプローチがけっこう違うように感じました。本作の方が現実の動物の生態に近い感覚で物語が進んでいくぶん、人間が知っているリアルな自然の摂理がそのまま画面に出てくる安心感があります。

とはいえ、種を超えて評議会があったり、種別ごとに王様や女王様という制度があったりして、ファンタジーとしての構造もちゃんと立ち上がっています。各キャラクター紹介でも王冠を被ったビジュアルが用意されていて、ここはわかりやすく寓話寄り。リアルとファンタジーのちょうど真ん中を狙った設計になっていて、個人的にはこのバランス感、好きでした。

ちなみに吹替版限定の話で言うと、応援ソングがPUFFYの「愛のしるし」だったりします。事前情報で知っていたので劇場で驚くことはなかったものの、世代的にはエモい起用だなと思いました。

まとめ

ここまでいろいろ書いてきましたが、 予想していたよりも面白かった というのが本作の素直な感想です。動物擬人化の和やかなコメディかと思って劇場に座ったら、意識転送SF+ピクサーらしい緻密な3DCG演出+ズートピアとは別アプローチの世界観設計、と想像していた何枚も上を行く作りになっていました。

ピクサーの動物擬人化系統で見ると、ズートピアともファインディング・ニモとも違う、もう一つ別の引き出しが本作で開いた感じがします。「動物がしゃべるけど、ちゃんと食べられる側もいる」という線引きを、視点描き分けという3DCGの腕力でやり切ったのが、結果的に本作の独自性になっているなと思いました。

SF側の説明はもう少し欲しかったかなとは思いつつも、それを差し引いてもキャラクターの個性、ジェリー市長まわりの演出、PUFFYのエモい起用と、十二分に楽しめる作品になっています。動物コメディだと思って身構えていない人ほど、いい意味で裏切られるかもしれません。


作品情報

あらすじ

ディズニー&ピクサー最新作! もしもビーバーになって、<動物の世界>に潜入できたら? ある目的のため、ビーバー型ロボットに意識を"ホップ"させたメイベルは夢見ていた動物との会話に大喜びするが、人間の世界を揺るがす動物たちのとんでもない計画を知ってしまう。ビーバーになった彼女が巻き起こす奇跡とは―?

トレーラー

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