【レビュー】名無し

名無し

レビュー

触れたものが消える、凶器なき連続殺人

個人的に本作でいちばん面白いと思ったのが、主人公の右手にまつわる能力の設定です。右手で触れたものは無機物だろうと生き物だろうと消えてしまって、しかも植物や動物、人間のように生命があるものに触れると、その命まで奪ってしまうという、なかなかに物騒な力です。

そういう力で連続殺人をやっていくので、当然ながら凶器は出てきません。監視カメラに映っても凶器らしきものが映らない、いわゆる凶器なき犯行というやつで、このコンセプトだけでぐっと興味を引かれました。佐藤二朗が自ら漫画原作を手がけて、原作・脚本・主演まで兼ねているというのも、この特殊な世界観への思い入れの強さを感じます。

佐藤二朗の新境地

個人的にいちばん佐藤二朗らしいと感じるのは、『新解釈・幕末伝』のような、自由でアドリブの効いたハチャメチャなキャラクターです。喋り倒して場をかき回していくイメージが強いので、まずそのイメージで劇場に入りました。

シリアス寄りの役で記憶に新しいのは『爆弾』ですが、あの時の佐藤二朗も腹の底が見えないキャラクターではあったものの、わりとおしゃべりで、ちゃんと分かりやすいタイプの狂気を感じられました。何を考えているか掴めないなりに、観ているこちらが怖がれる狂気だったなと思います。

それに対して今回は真逆で、とにかく無口で、何を考えているのか全く分からない、底の知れない不気味さでした。いつもの自由な佐藤二朗とも、『爆弾』の喋る狂気とも違う引き出しで、これは本人にとっても一つの挑戦だったのかもしれません。

主人公に入り込めないもどかしさ

狂気というと、普通は分かりやすく振り切れた言動を想像します。ところがこの主人公はそうではなくて、言葉数が少なくて、感情の起伏も読めなくて、何を考えているのか最後まで掴めませんでした。

その掴めなさが不気味さであると同時に、観ている側としては主人公に入り込めないもどかしさにもなっていました。怖いというより、ずっと距離があるまま終わってしまった感覚で、ここは感情移入しきれず惜しかったなと思います。

主人公の理解者として出てくるMEGUMIも、今作の佐藤二朗と同じくらい考え方も行動も読めないキャラクターでした。それでいて、ビジュアルだけで、ホームレス一歩手前のような小汚さ、くたびれた風体を出しきっていて、ここまで雰囲気で見せられるのはすごいなと感心しました。

執念で容疑者を追う佐々木蔵之介の刑事には、その立ち位置にちょっとした仕掛けが用意されています。とはいえミステリーとしては比較的やさしめで、構えて観ていると割と早めに察しがつくくらいの謎解きでした。

まとめ

観終わってまず出てきた感想は、結局のところ「一体なんだったんだ」でした。なぜ主人公にあんな能力が与えられたのか、その出自も理由も一切説明されず、ヒントらしいヒントもないまま進んでいくので、主人公の内面の読めなさと相まって、最後まで謎は謎のまま残ります。

そういう不気味さを味わう映画なんだと思えば飲み込めるんですが、観終わった今となっては、何も説明がなかったなという物足りなさも正直あって、満足度としては普通くらいに落ち着きました。

そう考えると、ストーリーの答え合わせを求める人より、いつもとまるで違う佐藤二朗の新しい引き出しを観てみたい人に向いている作品かなと思います。佐藤二朗が好きな人なら、その振れ幅を確かめるだけでも観る価値はあるんじゃないかなと思います。


作品情報

あらすじ

白昼のファミレスを襲った無差別大量殺人事件。
防犯カメラに残された容疑者の中年男。
被害者は誰もが鋭利な刃物のようなモノで切りつけられていたが、映っているはずの凶器の姿だけが目視できない。

鍵を握るのは男の右手。その手が向かう先には必ず何かが起こる。
目に見えない力の秘密に隠された、恐るべき真実から逃がれることはできるのか?

トレーラー

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