【レビュー】氷血

氷血

レビュー

前情報ゼロで身構えずに観たら、思いのほか満足度が高かった

前情報をほとんど入れずに観に行ったのですが、そもそも観る前の段階から、ちょっと勘違いしていたところがありました。氷血のフライヤーが2種類あって、片方はインパクトの強い女の人の絵、もう片方は幸せそうな家族の写真だったんです。そのせいで、これはホラーなのか、それとも家族もののヒューマンドラマ・泣ける系なのか、どっちなんだろう、と正直ジャンルをつかみきれないまま劇場に入りました。

そんなふうにジャンルの印象がふわっとしたまま、しかも期待値もそこまで上げずに観たのですが、観終わってみると、思っていたよりずっと満足度が高くて、行ってよかったなと思えました。

ハードルを下げて観たぶん拾えたところもあるとは思うのですが、それを差し引いても、静かな不気味さと家族のドラマの組み合わせが個人的にはしっかり刺さりました。期待していなかったものが良かった時の、あの得した気分がちゃんとありました。

派手に驚かせて畳みかけるタイプのホラーというより、穏やかだったはずの家族の内側が、少しずつ形を変えて崩れていくのを見つめていく感じの作りで、そういう静かな怖がらせ方が好きな人ほど合うんじゃないかなと思います。

"雪女" という題材と、静かに広がっていく家族の不穏

観る前から気になっていたのが「雪女」という題材でした。雪女というと、どうしても女性側にまつわる怪異というイメージが先に来るので、公式のあらすじにもある「認知症の父・茂(佐野史郎)が、なぜか悠希(加藤千尋)にだけ激しく怯える」という引きも相まって、この家族の中で悠希に何かあるんじゃないか、と自然に身構えながら観ていました。

そういう "誰が何を抱えているんだろう" という視線で観させられるのが、この映画のうまいところだなと思います。大きな出来事が起きる前から、家族の間にじわじわと疑いと不安が広がっていって、一緒に暮らしているはずの家の中の空気が、どんどん張り詰めていきます。

穏やかに暮らしたかっただけの家族が、少しずつほどけていくのを、こちらもただ見守るしかない感じで、そのやるせなさも含めてぐっと引き込まれました。

無邪気な晶くんと、"普通だったら幸せそうな家族" の手触り

個人的にすごく良かったのが、幼い息子・晶くんの存在です。とにかく素直で明るくて、雪の中でも親のそばで手伝いをしたり、甘えたり、無邪気なひとことで場をふわっと和ませてくれる子で、出てくるだけで画面が優しくなります。

怖い話が進んでいく中で、この子の無邪気さがあることで、「もしこの家族が何事もなく普通に暮らせていたら、すごくハートフルで幸せそうな家族だっただろうな」と何度も思わされました。その "普通だったら" の手触りがちゃんとあるからこそ、物語が沁みてくる部分もあるのかなと思います。

子役の芝居が自然で、作り込まれた不気味さの中に、ぽんと本物の子どもらしさが置かれている感じが、この映画の温度差をうまく作っていたなと思います。

ジャンプスケアに頼らない、じわじわ系の怖がらせ方

怖がらせ方そのものも、個人的には好みでした。いわゆるバッと驚かせるジャンプスケアは控えめで、雪女らしく背筋がスッと冷えるような、静かな不気味さがメインになっています。

壁一面に飾られた等身大の "白い女"

まず絵の存在感がすごいんです。古民家の壁一面を使って飾られた、等身大の「白い女」の絵。これがどんと目に入ってくるだけで、この家に何かが棲みついているような、ただならぬ気配を感じさせてきます。

わざわざセリフで怖がらせるというより、その絵がそこにあるという事実だけで「この家、普通じゃないぞ」と分からせてくる感じで、静かな画面なのにゾワッとくるものがありました。

風と声が混じる "音" の作り込み

音の作り込みも良かったです。吹雪や風の音が、絶妙に女の人の悲鳴みたいにも聞こえる音源になっていたり、よくある心霊映像ばりに、ボソッと女の人の声が混じって聞こえたりして、耳から不気味さを差し込んでくるのが十二分に効いていました!

画で驚かせるより、音で「今なにか聞こえた気がする」と思わせてくるタイプで、静けさと物音のバランスがうまいなと個人的に感心しました。雪国の静寂は、こういう演出と相性がいいんだなと思います。

まとめ

前情報をほとんど入れず、正直そこまで期待していなかったぶん、想像以上に満足度が高くて、観に行って正解だったなと思える作品でした。

雪女という題材の引き、家族の不穏の広げ方、そして絵と音でじわじわ攻めてくる不気味さと、静かに怖がらせるタイプのホラーとして、期待値が低かったぶんよけいに拾えるものが多かったなと思います。

バッと驚かせてくるホラーが少し苦手な人でも、この静かな冷え方は結構クセになるかもしれません。あまり期待しすぎないくらいの温度で観に行くと、逆に良い意味で楽しめるんじゃないかなと思います!


作品情報

あらすじ

幼い息子・晶を連れて、豪雪地帯にある夫の実家に移住した稔(北山宏光)と悠希(加藤千尋)。穏やかな日常を願った二人だったが、認知症の父・茂(佐野史郎)は、なぜか悠希にだけ激しく怯え、亡き妻の名を叫ぶ。

ある朝、茂は異常な姿で怪死する―― その瞬間を境に、家族は疑念と恐怖に苛まれ、やがて、家の中には不気味な"白い女"が次々と現れ、日常を侵していく―

稔は気が触れたかのように、"白い女"の絵を描き続け、幼い晶の目には母の姿が次第に"別の何か"へと映りはじめ、家族は一人、また一人と壊れていく――。

雪の結晶に魅入られ、理性を失った稔、侵蝕される悠希、そして危険にさらされる晶。これは、呪いか、幻想か、それとも現実なのか。

雪原が鮮血に染まるとき、未知の"白い恐怖"が姿を現し、残虐に暴走する―

引用元:映画『氷血』オフィシャルサイト

トレーラー

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