レビュー
掘った落とし穴に車をはめる
いちばん爽快だったのは、逃げるために用意しておいたものが、そのまま決まる場面です。予告にもちらっと写っていますが、掘っておいた落とし穴に車をはめる。あれが決まった瞬間はかなり気持ちが良かったです!
仕掛けそのものは、穴を掘って隠すという原始的なものです。それなのに、実際にはまった時の画は派手になる。手間をかけて仕込んだものが、狙いどおりの一瞬で効果を出すという流れが、この映画でいちばん強いところだと思います。
予告ではバイクが走っている画も出てくるのですが、乗っているのが敵なのか味方なのかも分からないので、どんな場面なんだろうと思いながら観に行きました。ふたを開けてみるとバイクアクションは思っていたより多めで、逃げる足としても攻める足としても使われています。
個人的に、この手の映画は嘘くささが出た時点で一気に冷めてしまうのですが、本作はCG感が強いということもなく自然に観られました。爆発や車の動きが浮いていないので、仕掛けが決まる瞬間の説得力もそのぶん保たれています。
アウトローなオーシャンズ
観ていて頭に浮かんだのは『オーシャンズ』シリーズでした。それぞれの分野のプロが集まって、まっとうとは言えない手段でターゲットを追い詰めていく。あの手際の良さと用意周到さが、そのまま本作にも入っています。
狙う相手の規模は、かなり物騒な方向に振れています。持ち逃げされた10億ドルを取り返すために、独裁者サラザールの帝国を内側から崩していくという筋書きです。盗聴に潜入、資産の差し押さえと、やっていること自体は頭脳戦なのですが、相手が軍隊まで抱えている以上、しくじった時に返ってくるものの大きさが桁違いになっています。
その中でも本作の主人公たちは、オーシャンズの面々よりもずっと金に貪欲だなと思いました。依頼を受けたから動いているというより、そこに10億ドルがあるから動いている。そこを義賊っぽい動機で包み隠さないぶん、《グレイゾーン》という言葉がしっくりくる立ち位置になっています。
そもそも法の外側で仕事をする話なので、正義の側から誰かを裁くような展開にはなりません。悪いことをしている連中を、別の悪いやり方で追い詰める。その割り切りは最初から最後までブレないので、そこは気持ちよく観られました。
97分で駆け抜ける
上映時間は97分です。アクション映画としてもかなり短い部類で、実際テンポは相当に良く、サクサクと物語が展開していきます。
ただ、そのテンポの良さが、そのまま良いことだけにはなっていませんでした。今どういう状況で、この人たちが何を狙って動いているのか、それを咀嚼している間に次の展開へ進んでしまう。追いつこうとしている間に場面が変わっていく感覚が、最後まで残りました。
結果として、のめり込むところまでは行けなかったなというのが、観終わっての手応えです。目の前で起こっている現象を、ただ見せられているだけという感覚になってしまう瞬間が何度かありました。派手なことは起きているのに、その派手さに乗れない。
説明が無いわけではないというのが、また惜しいところです。必要なことは一応セリフや場面で示されているので、情報が足りていないというより、それを飲み込むための尺が足りていない。あと少し飲み込む時間をもらえていたら、まったく違う映画になっていたんじゃないかなと思わなくもないです。
誰の物語として観ればいいのか
引っかかり続けていたのは、これは誰の物語なのかというところです。二人を雇ったのは若き敏腕弁護士のレイチェルなので、こちらとしては主人公はレイチェルだと思って観ています。オーシャンズでいえばダニー・オーシャンにあたる、計画を持ち込んだ側の人です。
ところが、逃走の準備をしているあたりではレイチェルがあまり出てきません。話を動かしはじめた人が、いちばん面白いところで画面から遠ざかっていく。ポスターやビジュアルの作りを見ると、推したいのはシドとブロンコの二人なのかなというところもあって、どっちつかずな印象が残りました。
そのレイチェルの出自や背景も、描ききれていない感が否めません。どういう人物で、なぜこの依頼にたどり着いたのか。そこがもう少し積まれていれば、彼女を軸に据えて観ることもできたはずですし、後半の展開の重さも変わっていたはずです。
シドとブロンコが組んでいる理由についても、表現自体は一応あります。ただ、あの尺だとイマイチぴんとこないというのが本当のところで、元SBSと元Navy SEALsという看板から想像できる範囲を大きくは超えてきません。二人の関係を掘る時間と、レイチェルを掘る時間と、どちらも中途半端になってしまったのかなというところです。
オーシャンズの例えに戻すと、レイチェルはオーシャンのポジションなので、サブに回すには無理があります。誰を追いかけて観ればいいのかが決まらないまま進んでしまったことが、のめり込めなかった理由の大半なんじゃないかと思っています。
まとめ
97分をテンポよく駆け抜けていく、後腐れのないアウトロー・アクションでした。掘った落とし穴に車をはめるような、用意周到な仕掛けが決まっていく気持ちよさは確かにあって、そこを目当てに観に行くぶんには十分に楽しめます。
一方で、満足度としてはそこそこというところに落ち着きました。強いて言うなら、もう少し各キャラクターを深掘りしたバージョンが観てみたいです。同じ話のままでいいので、レイチェルの背景と、シドとブロンコが組むに至った経緯にあと少し時間を割いてくれたら、印象はまるごと変わっていたはずです。
キャラクターの掘り下げという点では物足りなさが残りますが、プロたちが手際よく仕事をこなしていく段取りの気持ちよさという一点では、『オーシャンズ』シリーズが好きな人ならしっかり刺さるはずです。
そのうえで気になっているのが、これをレイチェルの物語として観るか、シドとブロンコの物語として観るかで、感想がだいぶ変わりそうだというところです。もし観に行かれるなら、どちらを主人公だと思って観たのか、ぜひ教えてほしいなと思います。
作品情報
あらすじ
10億ドルを奪い、姿を消した独裁者サラザールから、すべてを奪い返せ。
この“自殺行為”同然の任務に投入されたのは、裏社会専門の最強エージェントコンビ。元SBSの天才頭脳を持つシドと、元Navy SEALsの型破りな戦闘マシン、ブロンコ。若き敏腕弁護士レイチェルに雇われた二人は、法も正義も通用しない《グレイゾーン》へ潜行する。
盗聴、潜入、資産差し押さえ──手段を選ばない頭脳戦で、独裁者の巨大帝国を内側から崩壊させていく。
だが、任務成功の目前で予期せぬ事態が発生。レイチェルがサラザールに誘拐されたのだ。連れ去られた先は、武装した軍隊も警察もすべてサラザール支配下の無法の孤島。
金とレイチェルを奪還するため、二人の怪物がリミッターを解除する。成功率0%──1秒のミスが死に直結する、世界で最も危険な救出劇が今、始まる。
引用元:映画『グレイ・ミッション』オフィシャルサイト
トレーラー
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