レビュー
誰にも知られないまま、街を守り続けている
本作のピーター・パーカーは、街のみんなから存在を忘れられた状態でスパイダーマンをやっています。恋人だったMJも、親友のネッドも、ピーター・パーカーという人間を知らない。それでもニューヨークで犯罪と戦い続けている、というところから話が始まります。
「親愛なる隣人」はシリーズでずっと使われてきた言葉ですが、その隣人から認識されていない状態で名乗り続けるとなると、言葉の重さがまるで変わってきます。誰にも感謝されず、誰にも心配されない状態で、それでも助けに行く。ヒーローとしての純度だけを取り出したような状況だなと思いました。
そのうえで人々のスパイダーマンへの要求はどんどん上がっていって、そのプレッシャーが体の変調として跳ね返ってくる。孤独と重圧が同時に乗ってくる構造になっていて、これまでのトムホ版3部作とは入り口からして手触りが違います。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が好きなほど効いてくる
個人的にトムホ版で最高順位に置いているのは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』です。歴代スパイダーマンが集合するというお祭り感も含めて、あれを超える瞬間はそうそう来ないだろうと思っていました。
ところが本作は、その『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』があったからこそ良さが引き立つ作りになっています。前作でピーターが何を差し出したのかを覚えているほど、本作の一つひとつの場面が重く効いてくる。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が好きだった人なら、涙無しでは見られないシーンがあります。
お祭り感で殴ってきた前作に対して、本作はその代償を静かに引き受ける側に回っています。方向性はまるで違うのに、片方があるからもう片方が立つ関係になっていて、シリーズとしての繋げ方がうまいなと感じました。
余談ですが、トム・ホランドとゼンデイヤの結婚が報じられてから、おそらく初めての共演作の公開になるのかなと思います。画面の中の二人を見ているだけで、なんだかこちらまでエモい気持ちになってしまいました。
有機ウェブは「設定変更」ではなく「成長」だった
「ピーター2」の有機ウェブを、当時は設定変更として飲み込んでいた
トビー・マグワイア版(劇中では「ピーター2」と言及されます)は、ウェブシューターを使わずに手首から直接スパイダーウェブを出します。公開当時はまだマーベルが日本でここまで流行る前で、スパイダーマンとはそういうものなんだろうな、くらいの受け取り方をしていました。
その認識が変わったのは『アメイジング・スパイダーマン』のあたりで過去作を見直したときです。ウェブシューターは本来ピーターが自作した道具で、手首から直接出すトビー版のほうが異質なんだと、そこで初めて知りました。とはいえ映画あるあるの設定変更として片付けていた、というのが正直なところです。
成長で蜘蛛因子が変わるなら、あれも間違いではなくなる
本作でピーターに起きるのは、成長の過程で蜘蛛の因子が段階的に強まっていく、という変化です。予告でも身体的変異として触れられている通りで、その延長線上に有機ウェブの習得があります。
これが効いてくるのは、同じ理屈をトビー版にも当てはめられるところです。成長によって蜘蛛の因子が変化していくのだとすれば、ピーター2が手首から直接ウェブを出していたことも、設定変更ではなく個体差や進行度の違いとして説明がついてしまう。20年以上前の設定変更を、後から丸ごと許容できる形にしてきたことになります。
そう考えると、かなり練り込まれた脚本だなと感じました。トビー版を通ってきた人ほど、変異の描写を見ながら勝手に分析が捗ってしまうはずです。
ネトフリのマーベルを通っていると拾えるヤミノテ
予告に赤い装束の集団が映った時点で、これは見たことがあるぞ、という既視感がありました。劇中で「ヤミノテ」と呼ばれる忍者集団で、元をたどるとスパイダーマンではなくデアデビル側の敵です。
Netflixのマーベルドラマは配信当時にリアタイで追いかけていたので、『デアデビル』や『アイアン・フィスト』で散々戦っていた組織だとすぐに分かりました。ただ、あのドラマ群はMCUの映画本線を普通に追いかけているだけでは通らないところにあります。そこの組織がスパイダーマンの相手として出てくるのは、わかる人には分かるネタとして楽しめました。
そのヤミノテとは扱いがまるで違うのが、ジョン・バーンサルのフランク・キャッスル/パニッシャーです。ちらっと顔を出す客演ではなく、かなりメインキャラクター寄りの立ち位置で物語に絡んできます。
かと思えばマーク・ラファロのブルース・バナー博士が出てきて、ピーターの体の異変を診断する側に回ります。ドラマ側とアベンジャーズ側から同時に人が来ているわけで、それにしても情報量の多い映画だなと思いました。詰め込みすぎて散らかるのではなく、それぞれがピーターの状況を別の角度から補強する配置になっているのが良かったです。
まとめ
トムホ版スパイダーマンの新章として、これ以上ないくらい良いスタートを切った一作でした。誰にも知られなくなったピーターの再出発として単体でも成立していますし、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が好きな人ほど本作の良さが跳ね上がる作りにもなっています。ヤミノテやパニッシャーのようにドラマ側を知っているほど拾えるものが増える二重構造も効いていて、満足度はかなり高かったです!
そしてエンドクレジット後にも映像があります。これがとにかく考察のしがいがある内容で、マーベル好きなら観終わったあと1時間は語れてしまうはずです。席を立たずに最後まで残っておくのが吉です。
『ノー・ウェイ・ホーム』であの結末に胸を痛めた人こそ、劇場で続きを見届けてください!
作品情報
あらすじ
愛する人たちを守るために、彼らの記憶から自らの存在を消すという決断をした『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の出来事から4年。
大人になったピーター・パーカーはスパイダーマンとして、ニューヨークの人々を守り、彼らを脅かす犯罪と戦う日々に全力を尽くしていた。
そんななか、人々の期待を背負う彼の体に驚くべき身体的変異が起こり始める。同時に、街では姿なき不可解な犯罪が頻発。
“親愛なる隣人”に、かつて直面したことのない大きな脅威が迫る──。
引用元:映画『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』オフィシャルサイト | ソニー・ピクチャーズ
トレーラー
This product uses the TMDB API but is not endorsed or certified by TMDB.




