引用元:ビターズ・エンド 公式(公式X)
レビュー
注意
本作オッペンハイマーは歴史を題材にした内容のため、本記事には歴史に基づいた若干のネタバレが含まれます。
第二次世界大戦や J・ロバート・オッペンハイマー の半生ついてあまり知らない方は、ご了承の上お読みください。
現代人に考えさせる史実・歴史系映画
本作オッペンハイマーは「原爆の父」として知られる J・ロバート・オッペンハイマー を主人公にした史実・歴史系の映画です。
近しいジャンルの映画としては昨年公開された ナポレオン のような感じで、実際にあったことをベースにエンターテイメントに振り切らないような考えさせるタイプの映画になっています。
題材になっているのが「原爆」となり、世界唯一の被爆国の日本人としてこの映画を見るというのは、人によっては不快に感じることもあれば、原爆や戦争を知らない若い世代に原爆というものを考えさせることになります。
かく言う自分も戦争や原爆については正直なところ全然無知無関心でした。日本人としては決して笑って話せるような話題ではないことは理解してはいるものの、若い世代にとってはやはり遠い過去の出来事でどこか他人事のように感じている人も多いのではないかと思います。
ちなみに題材が原爆であるが故にR15+指定となっているのですが、これは戦争や原爆からくる残虐・グロテスクなシーンが原因ではなく、一部の性的描写が原因のものとなっています。逆に残虐・グロテスクなシーンは一切無いという点では安心して見てもらえるかなと思います。
原爆の開発競争
時は第二次世界大戦中。敵国となるナチスも同様に原爆の開発に着手しており、どちらが先に完成させるかという開発競争状態となっていました。
そんな中、オッペンハイマーを中心とする歴史に名だたる科学者が集まって、ロスアラモスに街を作り原爆の開発に取り組みます。
もちろん開発研究は簡単なことではありません。オッペンハイマー自身や開発チーム全体に降りかかる様々な苦労苦難の末、実験に成功したとなった際には、心の中で思わず「やったー!」とスクリーンに映ったメンバーと一緒にガッツポーズをしてしまうほどに、オッペンハイマーが開発研究に熱中していたことが伝わってきました。
原爆の投下と良心の呵責
原爆が完成したことで、戦争を終わらせるという名目の元、日本に原爆が投下されることになります。
当然、投下を指示したのはオッペンハイマーではなく、ハリー・トルーマン米大統領です。
原爆が投下され、経過報告を受けたオッペンハイマーが良心の呵責に苛まれる描写があります。
科学者として夢中で作り上げたものが、一瞬にして数十万人の命を奪うことになったという結果に対して、戦争に勝利したとはいえ笑って受け止めることができるようなことは通常不可能でしょう。映画の中でもそういった描写がありますが、実際に本人にかかったストレスは計り知れないものだったのではないでしょうか。
原爆について考える
この映画を通して様々なことを考えさせられました。
原爆は作られるべきだったのか?
戦時中でなければ間違いなく作られるべきではなかったと思います。
しかし、当時は第二次世界大戦中。絶対悪として現代にも語り継がれるナチスも原爆を作ろうとしていたという状況であれば、オッペンハイマーの手によってアメリカが最初に原爆を作ったというのは、不幸中の幸いという形になったのかもしれません。
もしもナチスが先に原爆を作り上げていたら被爆国は日本だけでは済まなかったかもしれないし、今のような平和な世界ではなかったかもしれません。
原爆は投下されるべきだったのか?
本作の中でも語られますが、原爆を使わなければ日本は絶対に降参せず、数十万人で済まないレベルの被害が両国にでていたのではないかという状況でした。
冷静に第三者目線から考えると、第二次世界大戦中の日本は有名な神風特攻をしてくるような国です。普段大人しいやつがキレると何をしでかすかわからないとはよく言いますが、まさにその状態であったと言えるように思います。そう思うと、被害の拡大を予想するのは想像に容易いでしょう。
また、当時原爆は作られたばかりの新兵器です。ただ「原爆を持っているぞ!」主張したところでどの程度の効果があったでしょうか?
ただ作っただけでなく実際にどの程度の被害が出るのかを示さなければ、戦争の攻めは続いていたかもしれません。逆に使わせる前に叩き潰せと言わんばかりに攻めが強くなったかもしれません。
行為・結果を正当化するつもりはありませんが、原爆を投下するアメリカ視点で言えば、数万人の犠牲で数百数千万の犠牲を出さずに済むのであれば投下すべきであると考える人も出てくる気持ちはわかります。
この状況は規模が世界規模レベルのトロッコ問題です。明確な正解があるものではないですし、どの選択をとっても手放しに賞賛・正当化していい結果にはなり得ません。
線路を走っていたトロッコが制御不能になった。このままでは、前方の作業員5人が轢き殺されてしまう。
この時、たまたまAは線路の分岐器のすぐ側にいた。Aがトロッコの進路を切り替えれば5人は確実に助かる。しかしその別路線でもBが1人で作業しており、5人の代わりにBがトロッコに轢かれて確実に死ぬ。Aはトロッコを別路線に引き込むべきか?
引用元:トロッコ問題(Wikipedia)
水爆開発とスパイ容疑
原爆が投下された後、オッペンハイマーは一緒に開発していたメンバーだったエドワード・テラーの水爆開発に反対するようになります。
その動きからオッペンハイマーはソ連のスパイであるという容疑をかけられ公職を追放されてしまいます。
後半、この部分について触れるシーンもありましたが、原爆という本筋からは若干離れるためかそこまで詳細に描かれている印象は受けませんでした。
国のために原爆を作り、その結果から良心の呵責に苛まれ、より強力な兵器となる水爆の開発に反対し、公職を追われる。単純に転落人生です。オッペンハイマー本人はこの時どのような気持ちだったのでしょうか。
まとめ
原爆を取り扱った作品ということで、日本での公開による感想は賛否両論多くあると思います。
しかし、戦争を体験していない若い世代に対して原爆について改めて考えさせることができる映画になっていると思います。
とはいえR15+指定なので、高校生・大学生にぜひ一度鑑賞してもらい、これを機会にして広島の原爆ドームに行ってみようとか、そういう動きや考えに繋がると良いのかなと思いました。
核爆弾なんてものは無いに越したことはないです。戦争のない平和な世界が訪れることをただただ願うばかりです。
作品情報
あらすじ
一人の天才科学者の創造物は、世界の在り方を変えてしまった。
そしてその世界に、私たちは今も生きている。第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。
これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。
しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。
冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。
世界の運命を握ったオッペンハイマーの栄光と没落、その生涯とは。
今を生きる私たちに、物語は問いかける。
引用元:映画『オッペンハイマー』公式|3月29日(金)公開