引用元:映画『フェラーリ』7.5 Fri(公式X)
レビュー
エンツォ・フェラーリの激動の実話を描く
高級スポーツカーで有名なイタリアの自動車メーカー「フェラーリ」の創始者であるエンツォ・フェラーリが体験した1957年にあった激動の実話を元に映像化した作品です。
現実的な自動車系の映画として記憶に新しいのは「グランツーリスモ」が挙げられますが、鑑賞した印象としては、同様に実話を元にした「グランツーリスモ」と比べると、大衆向け・エンターテインメント性よりも実際にあったことに対してフォーカスされていて、どちらかと言えば「オッペンハイマー」や「ナポレオン」のような、伝記としての性質を強く感じました。
エンツォ・フェラーリの葛藤
主人公のエンツォ・フェラーリは元レーサーであるという経歴から、「他企業は車を売るためにレースを走る」という点に対しフェラーリは「レースを走るために車を売る」という信念・信条をもとに事業の業績不振に立ち向かうことを選びます。
会社の安定をとるのであれば、他企業と手を組むことで廃業という最悪な結末を回避できますが、それはエンツォ・フェラーリの信念・信条に反する行為であるため、その選択をしないと即決する姿はとても男らしいと感じました。
その一方で、一緒に会社経営を行なっている妻ラウラとの冷え切った夫婦関係や愛人であるリナ・ラルディとその息子ピエロなど、私生活の面ではかなりドロドロな状況でエンツォ・フェラーリを悩ませます。
妻ラウラとの間に出来た息子ディーノが本作の舞台となる1957年から1年前の1956年に病気で亡くしたばかりという失意の中、本作の映像内では仄めかす程度ではありますが、後継問題などで周囲の家族や会社から詰められて精神的に追い詰められていたというのは想像に容易いです。
ただ、愛人がいてそこに子供がいてっていうのは、現代社会の日本の常識で考えたら完全に自己責任なのでそこに同情する気持ちは湧きませんでしたが、アーノルド・シュワルツネッガーにも隠し子がいたように、海外の大物スターに愛人問題はつきものなのかもしれません。
全てを賭けたミッレミリア
会社の業績不振からの脱却のためにもイタリアの公道を走るミッレミリアというレースで成績を残し、再起を狙います。
サーキットではない公道を走るレースで、1957年という年代も考慮した路面状況は現代と比べればかなり劣悪なものであると考えられます。
トレーラーからもわかりますが、搭乗する車はオープンカーがほとんどで、運転手はゴーグルをつけて運転します。パッと見た感じシートベルトのようなものもなく、高速で走行するレースで事故でもしようものなら命の保障がないというのが当時の常識のようです。
さらに悪いのがレースを一目見ようと訪れる観客の位置。クラッシュ対策であろう藁ブロックのすぐ後ろに平気で一般観客がいたりと、誰がどう考えても危ないじゃんってなるんですが、当時の危機感はどうなっていたんでしょうね…。今となっては考えられないです。
そんな状況においても社運を賭けたレースということもあり、死と隣り合わせのヒリついたレースが本作の見どころのひとつです。
まとめ
ただの高級自動車メーカー程度の認識であったフェラーリが現代の地位になるまでにあった背景にこのような史実があったというのは完全に初見でした。
Dolby上映ではなかったのですが、映画館で浴びるエンジン音は最高で、緊張感と迫力満点な演出を楽しむことができました。
ただし、伝記系の映画となっているためレース的なエンターテインメントを期待してはいけない点と、一部性的な描写やグロテスクな描写があるといった理由でPG12指定がされている点だけ心において鑑賞することをお勧めします。
フェラーリが好きな方やクラシックカーが好きな方にはたまらない作品になっているかと思いますので、ぜひ劇場でご鑑賞ください!
作品情報
あらすじ
1957年、夏。イタリアの自動車メーカー、フェラーリの創始者エンツォ・フェラーリは激動の渦中にいた。
業績不振で会社経営は危機に瀕し、1年前の息子ディーノの死により妻ラウラとの夫婦関係は破綻。
その一方で、愛するパートナー、リナ・ラルディとの間に生まれた息子ピエロを認知することは叶わない。
再起を誓ったエンツォは、イタリア全土1000マイルを走るロードレース”ミッレミリア”に全てを賭けて挑む――。
引用元:映画『フェラーリ』公式サイト|7月5日(金)全国公開