【レビュー】秒速5センチメートル

秒速5センチメートル
引用元:『秒速5センチメートル』映画公式アカウント(公式X)

レビュー

すれ違い・純愛・切なさ

2007年の新海誠監督によるアニメーションとして知られる『秒速5センチメートル』が、2024年、新たに奥山由之監督の手で実写映画として生まれ変わりました。

真実は小説より奇なり、とよく言われますが、『秒速5センチメートル』は、まさに「ありふれた真実を物語にした」ような恋愛ドラマです。特別な事件や派手な展開があるわけではなく、誰もが一度は感じたことのある「会いたいのに会えない」想いを、静かに、丁寧に描いています。その淡く儚い感情の積み重ねが、観る者の心をゆっくりと締めつけていくようです。

とはいえ、本作ほどすれ違いが続くと、思わず「もう少し運命的な力が働いてもいいのに」と感じてしまうほどのもどかしさがあります。現実には誰しも、タイミングや距離によって気持ちを伝えられずに終わることがあります。そんな“等身大の運命”を描くことで、かえって本当の愛の形を浮かび上がらせているのかもしれません。

想いを言葉にする難しさ、そして胸の奥で揺れ動く感情の繊細な変化。『秒速5センチメートル』はそれを「純愛」という言葉で包み込みます。派手さはありませんが、一つ一つの仕草や表情、沈黙の間にまで“想い”がにじんでおり、観る人それぞれの記憶と重なる瞬間があるはずです。新海誠監督が原作で描いたあの“痛みに似たやさしさ”を、奥山監督は実写の質感で見事に再構築しています。

恋愛ものでもあり登場人物の成長物語でもある

『秒速5センチメートル』は、単なる恋愛映画ではありません。作品は、子供時代・学生時代・社会人時代という3つの時期を通して、登場人物たちがどのように成長していくのかを丁寧に描いています。観る者にとってもその時間の流れが自然に感じられ、自分自身の成長や、かつて抱いていた淡い感情を思い出すきっかけを与えてくれます。

それぞれの時代で、登場人物の気持ちや関係性が微妙に変わっていく様子も印象的です。かつてはまっすぐに届いていた想いが、時間を経て少しずつ重なり方を変えていく。その変化が現実的でありながら美しく、まるで季節の移ろいのように描かれています。奥山監督が得意とするナチュラルな光の使い方、そして静かなカメラワークが、その心理的な変化をよりリアルに感じさせてくれます。

また、登場人物たちがそれぞれの人生の中で何かを手放し、何かを受け取っていく過程は、“成長”という言葉では収まりきらない深みを持っています。彼らが見つめる景色や歩く速度が変わるたびに、「いま自分がどんな場所に立っているのか」を問い直したくなる。恋愛を通して描かれる人の成熟、その瑞々しさと痛みが本作には確かに息づいています。

まとめ

『秒速5センチメートル』の実写版は、過去を懐かしむだけのリメイクではなく、新たな解釈と現代的な感性をもって再構築された、美しい人間ドラマとして心に残ります。映像はもちろん、静かな時間の流れ方や登場人物たちの“間”に感じる現実感が、本作ならではの魅力です。観終わったあとには、静かな余韻が胸の奥にしばらく残るでしょう。

もしあなたが誰かとの想いがすれ違った経験を持っているなら、きっとこの作品は特別な一作になるはずです。恋愛映画としても、人生を振り返る物語としても、観る人それぞれの記憶にそっと触れる優しさがあります。新海誠が紡いだ原点を、奥山由之監督がどのように“今”へとつなげたのか。その答えをぜひ劇場で確かめてみてください。


作品情報

あらすじ

1991年、春。
東京の小学校で出会った貴樹と明里は、互いの孤独にそっと手を差し伸べるようにして、少しずつ心を通わせていった。
しかし、卒業と同時に、明里は引っ越してしまう。
離れてからも、文通を重ねる二人。
相手の言葉に触れるたび、たしかにつながっていると感じられた。

中学一年の冬。
吹雪の夜、栃木・岩舟で再会を果たした二人は、雪の中に立つ一本の桜の木の下で、最後の約束を交わす。
「2009年3月26日、またここで会おう」

時は流れ、2008年。
東京で働く貴樹は、人と深く関わらず、閉じた日々を送っていた。
30歳を前にして、自分の一部が、遠い時間に取り残されたままだと気づきはじめる。
そんな時にふと胸に浮かぶのは、色褪せない風景と、約束の日の予感。

明里もまた、あの頃の想い出と共に、静かに日常を生きていた。

18年という時を、異なる速さで歩んだ二人が、ひとつの記憶の場所へと向かっていく。
交わらなかった運命の先に、二人を隔てる距離と時間に、今も静かに漂うあの時の言葉。
――いつか、どこかで、あの人に届くことを願うように。
大切な人との巡り合わせを描いた、淡く、静かな、約束の物語。

引用元:劇場用実写映画『秒速5センチメートル』

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